テーマ

プロジェクトテーマは「漁業におけるIT活用と地域プラットフォームの構築-安全で豊かな身近な海に暮らす」です。漁業の事業者の約70%、従事者の約50%を占める沿岸漁業を対象とします。参加メンバーのこれまでの実績を活用します。京都府舞鶴市田井地区の定置網漁について、地域のステークホルダーと連携して実施します。

第一に、アフター/ウィズ・コロナの社会で分散化・デジタル化・脱炭素化が進む中で、魚価の下落が続いています。実際に顕在化・深刻化した漁業の具体的課題を解決します。

課題 問題提起

漁業は、1985年から緩やかに漁業生産量が減り続けています。参加メンバーは、東日本大震災からの漁業復興を支援しながら、宮城県・京都府の漁業関係者・自治体などと協働して、幾つかの機器・システムの研究開発・改良と社会実装をしています。活動を通じて考えた課題は次のようになります。

1)操業者の安全確保

経営規模の小さい漁業従事者は1名/少人数での操業が多く、落水後の時間を争う救助が難しい。漁業従事者・海上保安庁・海上自衛隊への聴き取りでは、落水後の遭難者の位置決めをする機器の必要性が指摘されました。

2)漁場の日ごとの漁獲量の予測の難しさ

養殖漁業以外では、翌日の漁獲量の推定がほぼできません。コロナ感染症蔓延のために魚価の下落が続く中、魚網中に魚がいないとしても、毎朝出漁して目視確認などが行われていて、燃料や人件費などの削減を難しくしています。

3)沿岸漁業でのIT機器・システムの活用の難しさ

経営規模の小さい沿岸漁業では、新たなIT機器の活用などに取り組む事業者は多くありません。また、事前に必要となる知識が多く、日々進展している技術であり、相談する先が少ないのが現状です。

解決のために

課題1

陸上作業者を含む従事者の安全の確保:機器の進歩を踏まえた性能向上とビジネスモデル構築

海上遭難者早期発見システムの開発・改良・実装により実現します。準天頂衛星を利用して日本周辺で天候に関係なく10m以上の精度で位置決めします。保険とセットにするなどのビジネスモデルにより普及できると考えています。

課題2

ITを活用した効率化と消費エネルギー削減:田井漁港でのシステムの実装・運用・改良

これまでに漁場監視通信システムを開発して、宮城県東松島市にて実証実験を行いました。魚種・漁法別の経験に基づく知識と水温等のセンサーデータを合わせることにより、地域毎の多様なニーズに対応できます。またビッグデータに基づく漁獲量予測手法を開発しました。開発システムによる分析・可視化により、出漁前に漁獲量を推定することを目指します。

課題3

課題解決のプラットフォームの構築:他の課題の発見と解決のための議論とネットワークの構築

上記の機器・システムを総合して社会実装する過程で、漁業関係者と地域内外のステークホルダーが協働してプラットフォームを構築しながら、自ら課題を発見・解決できる持続的なIT漁業の実現を目指します。

今後の展開

沿岸漁業のSCM(サプライチェーンマネジメント)における連続性の確保

水産業(沿岸漁業)の一連のサプライチェーンにおいて 「漁網中の漁獲量の事前把握」は上流側にあるよく分からない部分です。その解決により、国内外の沿岸漁業のサプライチェーンの改善に役立ちます。

IT漁業のビジネスモデルの提案

沿岸漁業等を情報化(IT化)したビジネスモデルを「スマート漁業」と呼称して、宮城県東松島市でのモデルを作成しています。参加メンバーが行っている4地域(宮城県、福井県、徳島県、長崎県)のスマート漁業プロジェクトを総合して、より一般的なビジネスモデルを作成して、IT化のために必要な機器・システムと導入の手順を示します。

国内外への展開

国内の漁業関連のステークホルダーとして、民(田井水産など)・自治体(舞鶴市など)・学(はこだて未来大学、鳥羽商船高専など)・金(京都銀行など)・報(京都新聞など)と情報共有しています。またフィンランドでIT漁業を進めているGofore社と意見交換をするなど、展開の基盤整備と準備を進めています。

他分野を含めた「高専が得意とするIT技術を活用した」マルチステークホルダーによる社会サービスの創出

参加メンバーが行ったEUのFP7プロジェクトによるスペインの地方都市振興の調査と東日本大震災からの復興活動に基づきます。地域の社会サービス創出の手順をまとめていて、地域でのサービス創出の手順は以下の通りになります。

  • 地域のポテンシャル(可能性)を、自然・文化・社会・経済などの観点から把握します。
  • 地域のステークホルダーが集まって、地域の課題・ニーズを把握します。
  • 地域経済循環分析等により、地域のシーズ・強みを把握します。
  • 課題の優先順位付け、強みを発揮できるステークホルダーの特定、実際に利用できる資源を確保した上で、課題解決プロジェクトを計画します。
  • 実施するメンバーは、リスクと責任範囲を明確にした上でプロジェクトを実施します。
  • 地域の持続性を担保するために、事業化を行い、自律化していきます。

事業化については、参加メンバーは内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームにおいて、(一社)PMI日本支部が主催するスタートアップ研究分科会アドバンスコースで、「ITを活用した舞鶴市の小規模河川の防災システム」を舞鶴市・KDDIほかと事業化を進めています。リーンキャンバス、ロジックモデルなどを用いて、SDGsに基づいた事業化手法をまとめています。(https://www.pmi-japan.org/sdgs/)

上述を各地域の課題に適用し、新たな課題を発見すれば、他分野の社会サービスの創出が可能です。

なお、北近畿地域については、スペインの調査と宮城県での実績と合わせて、舞鶴高専紀要「北近畿地域の振興と舞鶴高専の役割について」第56号、2021、(文3、https://amateras.tech/documents/)にまとめています。